モテとギター

ギターを始めたのは女の子にモテたかったから。そんなスーパーイージーな理由でギターを始めたパープリンボーイだったおれは結局モテなかった。当たり前だ。ギターをやっているやつがモテるのではなく、モテるやつがたまたまギターをやっているだけなのだ。というかギターでもスポーツでもなんでも、それをやっているからモテるということはなく、基本的にはモテパワーをどれだけ持っているかで結果は決まってくる。それは顔のつくりだったり、スタイルだったり、所作の美しさだったり、社交性だったりいろいろだが、ひとついえるのは人生の早い段階でそれを獲得しなければ、後々、身につけることは難しいということだ。

さて、しかし、モテとは一体どういうことか。モテたことがないので皆目見当がつかない。オムライスを食べたことがないのにオムライスを作ることは無理だ。なのにオムライスが無性に食べたくなるとは、男とは甚だ悲しい生き物だと言わざるを得ない。しかしこうだったら悪い気はしないというシチュエーションを考えてみると、例えば、漫画、アニメ、映画でたまに出てくるクラスの女子の会話。「桃蜜子、酒井南川くんとどうなの?」「いや、あいつとはなんでもないよー」「えー、そうなの? 酒井南川くんってけっこう女子から人気あるんだよ」「そうだよ、桃蜜子がいらないんだったらあたしが酒井南川くん狙っちゃうー!」「きゃー、抜け駆けー!」「きゃいのきゃいのきゃん」とかいう会話に自分の名前が出てくるとモテなのかなって思う。が、あれはたぶん男、しかもモテない男が考えてる匂いがする。プンプンする。始終、マウンティングと空気の読み合い合戦をしている女の子たちがクラスの誰々が誰々のことを気になっているとかいうのは敏感に察知しているに違いない。それがわからないのは童貞だからだ。あっぶねー! 童貞のドリームに乗っかるところだったぜ。

とはいえ、クラスの女子から人気がある酒井南川くんはモテであることに間違いないし、酒井南川くんに彼女ができれば次点である、脛岡くんにモテのお鉢が回ってくるだろうし、脛岡くんに彼女ができればその次の菊藤田くんがモテていくのだろう。そういうモテリレーに加わりたかったのだが、おれは後ろから数えた方が早いどころか補欠として参加できていないまである。そんな場所でギターを弾いていても誰も見てくれないし、聞いてくれないのだ。