隠し味

ステルスマーケティング、ダイレクトマーケティングの類に寛容なおれでも、最近、迷惑メールが来まくるのには辟易している。朝起きたら謎の遺産提供、昼ごはんを食べてるときに謎の美人からのお誘い、夜寝る前に脅しが。ああ腹が立つ。なぜ夜に脅されないといけないのか! そんなに夢見を悪くさせたいのか! 謎の美人はなぜ夜に送ってこないのか! だからお前はもてないんだよ!

という話を彼女にしたら「どうせ、そういうサイトに登録したんでしょ? ふん、エロが!」とプンスコ怒って帰ってしまった。コミュ障のおれがそんなところに登録なんかするわけないじゃないか。一度くれたチョコレートをひったくって、自分で食べながら全力疾走をキメる器用な後ろ姿を見ながら、やれやれ。ぼくは追いかけた。

意外な身体能力におれは驚愕した。あいつは運動音痴の筈だったのに。人を抜くときなんかサッカー選手みたいだ。そういえばチョコレートに隠し味をいれたと言っていたが、ステロイドでも入っていたのだろうか。あんまり中学元陸上部をなめないでもらいたい。おれはドーピングは嫌いだ。

あんまり高校元軽音部をいじめないでもらいたい。おまけに途中でやめた根性なしなおれだ。ていうかさー、普通、こういうときに1キロとか走る? いったいどこに行こうとしてるのか。あ、やっと止まった。

「い……いくらなんでも走り過ぎだろ……」
「4粒いれたからね」

グリコは1粒、300メートル。