ベイビーベイビーベイビー

電車で赤ちゃんがこっちをみるときってままある話だと思うんですよ。あ! 赤ちゃんだけにママある話だと思うんです、ってやかましいわ! いやもちろんスタンドアローンで赤ちゃんがこっちを見ていたらそれそれでホラーだったりしますが、今回は普通のママに抱かれたベイビーの話です。
で、赤ん坊こっち見とる。そうすっと何らかのリアクションをさせてやろうと思うじゃないですか。具体的には笑わせようと。
だから変な顔をするわけですよ。おれは生まれてこのかた始終変な顔してるけども、このときのための、赤子用にファニーな福笑いってやつをするわけです。顔を膨らますとかね。
もちろん顔を膨らませるといっても膨らむのはせいぜい頬ぐらいなものなんですが。顔以外なら他にもあるけど、そこを晒すといろいろと都合が悪い。ママが二人目のベイビーを欲しがっちゃうからね。がっはっはっ。
もちろん、こんな考えはおくびにも出さず、先ほどからキープスマイリってる。膨らますだけじゃ芸もないので凹ませたり、くしゃくしゃにしてみたりもしてるが、どうした赤子。無表情の極み。あれか。まだ貴様には感情というものが芽生えていないのか? ならば仕方ない。そろそろ君のママンがおれを見る目が変質者へのそれと化しているからね。
まあ時間も頃合いです。山の手線は新宿につきます。表情を福笑いフェイスからいつもの物笑いフェイスに戻して、さあ降りよう降りよう。フェイスはこんなもんだけど、物腰はスマートにいきたいよね。さっと扉を通る瞬間、すれ違うお姉さんのヒールがおれのビーチサンダルを貫く。
そのおれの姿をみて赤子はようやく笑った。