おれとギター

おれが生まれて初めて買ったギターは、エピフォンというアメリカの会社がたぶんアジアのどこかで作ったもので、赤くて角が左右にふたつ、ビン! と尖っているやつだった。

中学の頃に、どういう経緯かは忘れたが、クラスメイトの中でバンドいいね! みたいな空気が漂い、もしやバンドをするとモテるのでは? という絶対に間違っているのに誰もが陥る勘違いも手伝い、池袋の楽器屋で買った。

当時はビジュアル系と呼ばれる音楽が流行っていて(今思えばそれは音楽性にはあまり関係がなく、化粧した顔の整ったバンドの総称だったのだが)、そういう人たちはだいたいヘラジカの角みたいな、あるいは手で紙を千切ったような、威嚇的な形をしているものを使っていることが多かった。友達もそういう形のギターを欲しがったり、実際、手に入れていたが、おれはあんまりそういう形が好きにはなれなかったので、雑誌の広告をカタログ代わりに琴線に触れる形のギターを探した。

形。のちに大学でバンドサークルに入り、他人の音についてうんぬん口を出すような男がギターを形で選んでいたと知られるのは恥ずかしい話だが、当時は楽器屋に入るだけで動悸が起きるほど緊張し、CDで聴くような音は何十万もするギターから出るので再現不可能と考えていたので、もう判断材料は見た目しかなかった。

それでも、角がふたつあるほうが弾きやすいと聞いていたのと、なるべく部品が多いほうが得な気がするという思い込みで、今はなき『バンドやろうぜ』という雑誌の広告ページから、ヒョウタンみたいなやつと自分の中で思い描いてた所謂ギターみたいなやつのどちらかかなと絞りかけたその時、木目が透けた真っ赤な色と尖ってるが威嚇的とまではいかないそれを見つけたのだった。

そのギターはSGという名前だった。他のギターがレスポールだのストラトキャスターだのスペクトラムVだのそれっぽい名前がついてるのにアルファベット2文字。そのへんは「うーん」となったがとにかく見た目が気に入ったのでそれにした。

そういえばあまり知られていないことだがギターを買う前には試し弾きしないのはありえないらしい。なので通販ではなくなけなしの勇気を振り絞り友達についてきてもらって、楽器屋に行った。お目当てのSGはなかった。店員に「取り寄せになっちゃいますねー、なんならご自宅まで送りますけど」と言われたので「へえへえ、じゃあ仰せのままに」ってんで家に送ってもらうことにした。友達にはそれじゃあ通販と買わんねーじゃん。バカじゃん。と言われた。くそーおまえなんか友達でもなんでもないわい! 大体ネックとボディの間にスーパーの広告を詰めて弦高を調整してるようなやつに言われたくねー。あほー! ばかー!

で、数日後届いたSGでおれは猛練習して、それが今のテクニックの基礎になっている。初めてのギターとして今でも実家に帰ったときはたまに弾く。

ときれいに終えたかったが、そのギターは2年ぐらいでケースごと道路に落下し、壊れてしまった。そのときにギターなんですっぱりやめてYouTuberへの道を目指していればヒカキン、はじめ社長などになれ、職業斡旋エージェントが全然仕事を見つけてくれないで、来月やべえぞってことにもならず、小中学生をだまくらかして左団扇だったのだが、当時はまだYouTubeGoogleもなく、インターネットに繋げるとパソコンがぴーひょろひょろガガガガぴろぴろぴろザーザーを異音をうならせる時代だったのでそれも無理だった。

まあどんなことでも最初はうまくいかないものだ。それが人生でも。