おれと亀

 何もやることがないので、ポケットに手を突っ込んで歩いていた。へどもど歩いていた。気がつけば海岸。波が常に穏やかで、サーファーもいない静かな海である。特にマリンスポーツとか釣りとかしないから、普段海に興味があるわけではないが、このちゃーんちゃぷちゃぷとした雰囲気つうか佇まいつうか、なんかいいよね。ぼくもわたしも詩人になっちゃうよね。うーん、一句ひねろうかな。なんて思ってるとなんかうるさい。小うるさいというか子うるさい。思春期未満特有のきゃいきゃいとした蛍光イエローな子どもの声である。空き缶でも蹴り合いながら、サッカーの真似事をしている。
 ああ、自分もあのぐらいの歳にはなにか輝くものがあったような気がする。無邪気にきんきらきんのぴっかぴかだった気がする。うう。眩しいねえ。どれ、おじさんにその眩しい可能性の塊を見せておくれようう。不審者に思われないように、なるべくそろそろと近寄ってみると、おじさんドン引き。彼らは20から30センチぐらいの亀を蹴っ飛ばしながら遊んでいやがる。
 マジか。LINEだ、Twitterだ、リベンジポルノだっつー時代にお前らは亀をいじめて遊んでいるのか。時代錯誤もいい加減にしろ。おまえら、昔話を読んだこと無いのか。あのなあ、亀をいじめるとなあ、あとでひどい目に……。あわない。子どもは別に亀から何の制裁も受けてなかった。むしろ、助けたおじさんの太郎さんが、ちょっとお時間延長してたせいで友達も家族もいなくなってジジイになって、鶴になって彼方に飛び去るだけだ。むしろここで亀を助けてしまうと、おれが浦島の某である。まー別に人生詰んでるからいっか。実際、目の前で、亀サッカーされると気分が悪いものである。クソガキが。
 おれは声掛け以上の案件になることを覚悟で、むしろ万一、子どもたちが逆上することも考えて、枝振りの良い流木をぶんぶんしてながら「こら、ボケェ。亀サッカーやめろや」と言った。途端、しんとなる子どもたち。あ、これ一歩間違えるとやばい感じですね。だいたいがして、おれなんか身長が中学生ぐらいしかないのである。実戦になったら、本当に負けてしまうかも知らん。中途半端に威嚇するのが一番危険だ。もう気の触れた人間を演じよう。「てめえら見てるとムカつくんじゃ、殺すぞ」こういうときって一番強そうなやつを潰せばいいんだっけ? 漫画でなんかそういうことを読んだ気がする。つーか小学生相手に、一番強そうなやつって。なんだ、その情けない感じは。まあこいつがリーダーっぽいなって奴をとりあえず睨みつけて、「わああああああああ」当てないつもりで流木を振るう。子どもビビってやんの。まだまだ嘴が黄色いね。散り散りに逃げてく。うお、マジに亀助けちまったぜコレ。
 で、亀がおれに「おありがとうございます。お礼に龍宮城に」って喋ったか喋らないかは明日の朝刊を御覧ください。1面には載ってないと思う。