おれと亀2

で亀がおれに「おありがとうございます。お礼にぜひ龍宮城まで」って喋ったら、このまま浦島ルート一直線ってことになんじゃないかなフハ。って半笑いでまた流木をぶんぶんしてたら、なんたるちあ。亀は喋った。マジで? いや本当は、なんつーか声って感じではなくて、でも直接脳内にって感じでもなくて、亀の考えていることが何となく分かっただけ。だから喋ってはいない。でも意思らしきものが理解できてる。うひー、長年の投薬治療のせいで、とうとう頭イカれたかおれ。統合失調なんちゃらってやつになっちまったんじゃねーのか。混乱するおれの心情をぜんぜん察しない亀、曰く「助けてくれてありがとうございました。実はわたしはこの星の生き物ではありません。」あー、そういうパターンね!
 この亀、でなく宇宙人は宇宙船が故障して修理の材料を探しに海岸に出てたいたところ、先ほどの子どもたちに見つかってしまって、亀サッカーの刑に処されていたらしい。嘆かわしきことに子どもの残酷性は、惑星間を超えるのに十分な暴力になりうるのだ。宇宙人は、ああ、自分はこんな辺境の惑星で訳の分からない巨人たちに襲われて死ぬんだ。悲しい。よよよ。となっていたところに、おれがウラシマって助かったとのことだった。
「宇宙船の修理って海で取れるものでなんとかなるもんなの?」
「なるもんなんです。自分もよくわからないんですけど、取説の『こんなときは?』ってFAQに書いてあったし、ネットでも海からミネラルとか微細な金属とかをアレコレして直るって言ってるブログが」
 ふーん。まあそういうものかもしれない。おれも電子レンジの仕組み、はまだなんとなくわかるけど、FAQとかネットの情報に従ったら何故か直ったっていうケースは体験したことがある。
「ていうか、あなたリアクション薄いですね。たしかこの星ではまだ異星人との第三種接近遭遇ってメジャーではないはずですけど」
 第三種接近遭遇? なんかで聞いたことがある。そうだ。UFOを見るのが第一種。UFOにどうにかされるのが第二種。宇宙人と話すのが第三種。おれはSFとかが好きで、そういう知識は無駄にある。
「本とか映画とかで慣れてるからかな。特にこの国はアニメっていうものがあって……」
「あ、アニメ。わかりますよ。ガンダムのことですよね」
「え、ガンダム知ってんの? でもガンダムに宇宙人出て第三種なんちゃらっていうのはダブルオーの劇場版ぐらいだし、アニメイコールガンダムつーのはちょっと違うけど。てか、なんでおれと君はこうやって会話出来てるの?」
「それはこの外骨格型スーツに内蔵されてる機械が、あ、サイコミュみたいなのがですね」
「大丈夫。ガンダムに例えなくても大丈夫」
「ですか。原理的にはわたしとあなたの語彙で似たものに勝手に変換して伝えてくれるみたいなんですけどね」
「あー、だからやけに君の話し方が地球の、日本の、それもごく一部の人種風なの」
「そうなります」
「すげえじゃん」
「ですかね」
 宇宙人の感覚はわからない。自分の星よりも文明の遅れている星に来たら、ふうん、こんなものも知らんの? あはは。ほやったら、これも? これも知らん? アホや。うちだったら、田舎のガキもジジババもびゅんびゅん使いこないしてるけどね。昔モンと話してるみたいで笑けるわ。げらら。とかやりたくなりそうなもんだけど。すげー淡々としてる。そこら辺は高い文明人との差か。声色が分からないからっていうのもあるかもしれない。
「助けてくれてありがとうございました」
「あ、いいよ。別に。なんか見てて気分悪かったし」
「なにかお礼を出来たらいいんですが」
 来た。ウラシマ展開。そういえば、光速に近いスピードで移動すると時間がゆっくり進んで、相対的にタイムスリップしたようになるのをウラシマ効果って言うなあ。そこからきてるか忘れたけど、龍宮城が別の惑星説とかそういうのあったな。わかってますわかってます。宇宙人って段階でこういうパターンなのは予想できましたから。おたくの星について、地球に戻ってきたら300年後とかそういうのなんでしょ。わかってるわかってる。
「でもうちの星に連れて行ったり、こっちのテクノロジーを渡したりとかっていうのは出来ませんけど」
「え」
 まじかよ。そらすパターンなの?